【実話怪談】おっぱしょ石と雷 山口敏太郎氏の実体験

(※この話は「おっぱしょ石が呼びかける」の続編です)

 おっぱしょ石はその後再びしゃべる事はなかった。

 あのおばさんの冗談なのか。それとも妄想であったのか。今となっては不明であるが、あの奇妙な夜の事は忘れられない。

 それからしばらくしての事である。昭和50年代の初頭だったと記憶しているが、いや…定かではない。おっぱしょ石で、ある事件が起こった。




 おっぱしょ石に落雷が落ち、真っ二つに割れたのである。伝説上では、通行人にしゃべりかけ、侍(異説では力士)におんぶされた後、放り投げられて割れたはずである。 二分割された石がなぜ完成体で、今もあるのか。それが、かねてから私の疑問であった。

 その為、子供心におっぱしょ石に割れ目がないのが納得いかなかったのであるが、実際に割れてみると、これまた不気味この上なかった。リアルすぎるのだ。

 しばらく、おっぱしょ石の断片は本体に立てかけられた状態で放置されていた。ちょうどその頃、誰が言う事もなく、近所の子供たちの間で奇妙な噂が立ち始めた。

 「おっぱしょ石の前を通る時に雷が光ると切り傷ができる」この噂は私にとってこの上もなく恐ろしかった。祖母の家から叔母の家に行く場合、必ずおっぱしょ石の前を通らざるえないのだ。そして、間違いなく私はお使いで「あの道」を歩かせられるだろう。

 ある夜、私は祖母の使いで叔母の家に向かう事になった。既に空には雷光が輝いている。いやな予感がした。こう場合、私は妙にタイミングがあってしまうのだ。私が恐る恐るおっぱしょ石の前を通過しようとした時、雷が鳴った。

 一瞬周囲が昼間のように見えた。やばい。私は恐怖のあまりその場にうずくまったが、そのまま駆け出し叔母の家に向かった。叔母はやさしく迎えてくれた。

 どうやら私に切り傷はない。やはり単なる噂だったのか。私は安堵し、叔母宅で使いの用事を清ますと祖母の家に引き返そうとした。ふと叔母の手を見ると包帯を巻いている。

「どうしたの?」

 私がなにげなく聞くと、叔母は苦笑いしながら答えた。

「さっきの稲光でおどろいて手を切っちゃったのよ」

 非常に恐い体験であるが、この話は後に講談社「学校の怪談7」に収録される事になる。




 なお、この本が私の商業誌デビューの記念すべき最初の1冊目である。後に「妖怪進化論」で学研ムーミステリー大賞を受賞する事につながり、プロへのきっかけとなるのだから、人生はわからない。

 なお「学校の怪談7」の裏表紙の見開きには本名の間(はざま)という私の名前が見えるのだが、収録された話が少々オーバーになっており、私が失神した事になっているのには苦笑させられた。

 このように自分の怪異体験に尾鰭がつく事が一番「妖怪じみた話」なのかもしれない。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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