妖怪・幽霊

【実話怪談】おっぱしょ石が呼びかける 山口敏太郎の実体験

 これは、筆者・山口敏太郎の体験である。

 昭和41年、私は徳島市の二軒屋にあった祖母の家で生まれた。当時は空襲を免れた戦前からの屋敷も多く、古い町並みが子供心にも不思議な感覚を抱かせた。休日に両親と買い物に出かけると、老いた戦傷軍人が街角でアコーディオンを弾く姿が見られ、郊外の空き地では、子供たちがウルトラマンごっこに興じていた。

 あれは昭和40年代末の事である。当時小学生だった 私は、祖母の家に泊まっていた。
 既に両親は新興住宅街に新居を構え、週末だけ私は祖母の家に泊まるのが習わしだった。当時花屋を営んでいた祖母の家には、日々大勢の花売りの老婆が出入りし、祖母は花の卸しを行っていた。そして酷く暗い夜だったと記憶している。




 祖母が店を閉めようとしていた時の事。一人の女性が店に駆け込んできた。常連の女性である。息が乱れていた。

「まあ、そんなに慌てて どないしたん」

 祖母が女性に話しかけた途端・・・

「今、おっおっぱしょ石がしゃべった」

 確かに女性はそう言った。

「そんなアホな話があるかいな〜」

 祖母は笑って相手にしなかった。

「おっぱしょ石」とは現在も徳島市二軒屋町にある史跡で、 かつて夜毎、通行人に「おっぱしょ〜(おんぶして)」と呼びかけたという伝説が残されている。

 いぶかしむ祖母を尻目に、女性は真面目な顔で続けた。

「さっき、おっぱしょ石の前で、昔なー、ここではおっぱしょ、おっぱしょという声が聞こえたんよ〜って、話を知人としてたら…」
「そしたら、どうなったん?」

 せかすように祖母が聞く。

「おっぱしょ石のあたりから、まだおるよーって声が聞こえたんよ」

 女性は吐き出すように、語り終えた。唖然とする祖母。奇怪な話に横にいた私もなまつばを飲み込んだ。

 まさか、おっぱしょ石が復活し、しゃべったというのか。子供心にもその女性の体験談に興味を持った。
 しかし、当時既に妖怪少年であった私は、水木しげるの妖怪図鑑にのっていた話と今回の体験談が酷似している点に気が付いた。

 つまり、この「かつての妖怪伝説を語る人間たちに、妖怪自身がまだおるよ〜」と叫ぶ展開は妖怪「油すまし」の出現パターンである。何故、「油すまし」と「おっぱしょ石」の人間をおどかす手口が酷似しているのか。これは冗談だが、妖怪が人間をおどかす時に使用する手順書のようなものがあるのだろうか。




 かと言ってこの女性が妖怪マニアで、「油すまし」の話をもとに「おっぱしょ石の復活妖怪談」を創り上げたとは思えない。嘘にはみえなかった。

 油すましのネタと、かぶってるで、おっぱしょ石さん!といろいろ考えているうちに、

「妙な話やな、ちょっと調べてみるで〜」

 はっと思いついたような顔をした祖母は、近所にすむ親戚の者を呼ぶと、女性とおっぱしょ石周辺を探索に行った。しかし、その夜は何も発見されなかった。

【※続く】

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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