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桜の花にまつわる伝説 若い娘の姿で上人の前に現れた「血脈桜」

 春を迎え、日本全国で桜が開花した。読者の中には、既にお花見を済ませたという人もいるのではないだろうか。

 桜の都市伝説と言えば「木の下に死体が埋まっている」というものがある。この都市伝説は梶井基次郎の著作から来ている比較的新しいものと考えられているが、やはり桜は他の木々と違うのか、不思議な伝説が語り伝えられているものも多い。




 北海道の光善寺には「血脈桜」という桜の古木が存在している。
 この桜は柳本伝八という鍛冶屋が、隠居後に娘の静枝と共に旅に出た際に吉野から持ち帰った苗が根付いたものだという。

 光善寺に植えられた苗木はやがて立派な木へと成長し、やがて見事な花を咲かせて人々の目を楽しませた。

 それから何年も経って、光善寺の本堂が再建する計画が出た。今や大木になった桜は本堂のすぐそばにあったため、工事の邪魔になるとして切り倒してしまおうという話になった。

 この時、光善寺の住職は十八世穏誉上人が務めていた。いよいよ翌日には桜が切り倒されるとなった日の深夜、一人の美しい娘が寺を訪れた。
娘は自分が近々死ぬ運命にあるといい、上人に血脈を授けてくれるよう懇願した。血脈とは在家の人に与えられる仏法の法門相承の系譜であり、極楽へ行くことが出来るように託されるものだ。

 病気を患っている等の様子もなかったが、娘がたいそう熱心に訴えるので、上人も血脈の証文を授けてやることにした。

 さて、翌日になって木を切り倒すために人々が桜のそばにやって来た。すると、桜の木の枝に何かが引っかかって揺れている。何だろう、と思って手にとってみると、それは昨夜上人が娘に授けてやった血脈の証文であった。




 さては、あの娘はこの桜の精であり、切り倒される運命を嘆いて血脈を乞うたのかと上人は悟った。そして、桜の木を切り倒す予定は中止され、懇ろな供養も執り行われたという。なお、この時姿を現した娘については、この桜の苗木を植えた静枝の姿であったとも、静枝の霊が切り倒される事を嘆いて出てきたとする説もある。

後年、名字になって光善寺は本堂と庫裏が全焼する大火事に遭った。本堂のそばにあった血脈桜も類焼して酷い損傷を受けてしまったが、奇跡的に蘇ったという。

 血脈桜は、今も美しく花を咲かせている。

(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)