巡礼者の後をつけ、儚く消える幻獣「ア・バオ・ア・クゥー」

 「ア・バオ・ア・クゥー」この名前を聞いて「機動戦士ガンダム」に登場する巨大な宇宙要塞の名前を思い浮かべる方も多いことであろう。

 この印象的な名前は、元来はインドやマレーシアで語られていた不思議な存在につけられた名前である(正確にはガンダムに登場する宇宙要塞の方は「ア・バオア・クー」)。




 ア・バオ・ア・クゥーは姿形は見えないのだが、触れると桃の皮のような感触がすると言われている。

 人間にとってまったく害がない存在で、どこか同情したくなるキャラクター性をもっている。
 インドの西部にあるラジャスターン州には、15世紀に建てられた「勝利の塔」という巡礼地があるのだが、ここにア・バオ・ア・クゥーは生息している。

 ヒンドゥー教の巡礼者たちの間では、この塔を登ると悟りの境地に近づくことが出来ると信じられていた。ア・バオ・ア・クゥーは透明な姿で塔に登る巡礼者を一番下の階で待ち構えており、巡礼者が塔を登っていくと、そのあとについていく。

 ア・バオ・ア・クゥーは巡礼者のあとに付いて行く事でしか上に移動できないのである。巡礼者は階段を上がって行くごとに少しづつ悟りに近づいていき、それに呼応するかのようにア・バオ・ア・クゥーの姿が変化していく。
 無色透明だったア・バオ・ア・クゥーは次第に様々な色を帯び、最終的には青色の光を発するようになる。

 ア・バオ・ア・クゥーが塔を登るのは、自分の姿を完全なものにするためなのだが、それはついていく巡礼者がどれだけ悟りの境地に近づけるかに左右される。

 巡礼者は最上階に到達するが、結局はこの程度のことで悟りの境地に到達できるはずもなく、巡礼者は景色を眺めるなりしたあと、塔を降り始める。
 巡礼者が降りていくと、ア・バオ・ア・クゥーも下に転がり落ち始め、色を失っていく。そして、そのことに悶え苦しみ、小さな悲鳴を上げ続ける。




 結局、巡礼者が最下層に降りた時には元の透明な存在にもどっており、ア・バオ・ア・クゥーは次の巡礼者が訪れるのをただ静かに待つ事になる。
 つまり、ア・バオ・ア・クゥーはこの行動を終わりなく繰り返し続けることになるのだ。このア・バオ・ア・クゥーの伝説は一種の説話であり、巡礼と真の悟りに至ることの過酷さを表現したものであるという説がある。

 「勝利の塔」は今も現存しているのだが、最上階へ続く階段は封鎖されており、一番上までは登れなくなっているという。ア・バオ・ア・クゥーが完全な姿になることは、さらに難しくなっているようである。

(飯山俊樹 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像は『幻獣辞典 (河出文庫)』表紙より

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