卵の幽霊(佐倉の連隊)

 『行徳昔語り 行徳昔話の会』によると、第二次世界大戦中、現在の○○駅付近に軍隊の駐留地があった。精鋭部隊であり、毎日厳しい訓練で大勢の若い兵隊が鍛えられていた。その中に浜田という人物が所属していた。

 「俺って、兵隊に向いてないんだよ」
 浜田は、元来おとなしい気質の男だったらしい。荒くれ者の多い軍隊になじめず、基地から数回に渡り脱走した経験があった。
 「おまえは、何度言ったらわかるのだ。浜田!!」
 「すいません。どうしても我慢できなくて」
 脱走したからと言って、故郷にも帰れるわけでもない。最終的にはあえなく捕まり、強制的に基地に連れ戻される醜態を繰り返していた。




 「おまえは、本当に使えない」
 「また、脱走失敗したらしいな」
 仲間たちは、そんな浜田の失態をあざ笑い、いじめの対象とした。いつの時代でも集団があれば、いじめは発生するのだ。悪質ないじめは執拗に続いたが、浜田は反撃も逃走もできず、ただ我慢するしか方法が無かった。

 そんな過酷な軍隊生活の中で、楽しみといえは食事時ぐらいであった。特に戦時下での卵料理は、ご馳走である。
 「今日は、卵の日だね~」
 「浜田は、卵が好物なんだな」
 「自分にとって、軍隊生活で唯一の楽しみは、卵料理だけなんです」
 浜田もご多分に漏れず、卵が出る日を心待ちにしていたらしい。彼にとって唯一の娯楽であったのだろう。

 しかし、その後、事態は急変する。浜田は軍隊での過労とストレスにより死亡してしまったのだ。浜田の実家は遠方にあった。そこで、家族が遺体を引き取りに来るまで、同僚が交代で遺体安置室で見張りに立つ事になった。
 「なんだか、いやだな~」
 「おまえはよく浜田のことを虐めたじゃないか。お前に出るんじゃあないか」
 「おいおい、よせよ。怖いじゃねえか」

 仲間たちは浜田の遺体の見張り番に立つを事を恐れた。結果、浜田をいじめた呪いであろうか。見張りに立つ者がことごとく高熱を発してしまったのだ。
 「やっぱり、死亡した浜田の祟りではないのか?」
 「他のやつらも浜田に祟られるぞ」
 恐れおののいた同僚達は騒ぎだし、部隊の中でも評判になった。
 「遺体が実家に帰ったあとはおとなしくなるだろう」




 同僚たちは鷹をくくっていた。だが、遺体が実家に引き取られた後も、浜田の幽霊は出没し、仲間を震撼させた。特に卵の出る食事時に限って、浜田の幽霊は出没した。卵料理の日に炊事当番が歩いていると、馬に乗った浜田の怨霊が
 「た ま ご ー」
 と絶叫しながら、走る抜けていく。浜田の怨霊は、仲間への怨みではなく、卵を食べたかったという、ただそれだけだけの執着で化けてあの世から帰ってきたのだ。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)



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