【実話怪談】祖母が見たもの

 数年前、まだ社会人1年生だった頃のこと。仲の良かった友人から、このような事を急に切り出された。
 「お前、幽霊って信じる?」

 彼は初めての転勤&一人暮らしを新天地で過ごしており、筆者も週末はよく遊びに行っていた。
 そんな彼の家に向かう電車の車内。たわいもない事を話していたのだが、話がとぎれた所で急に彼が思い詰めたような顔になって、筆者に聞いたのだった。

 「は?」
 「いや、お前は色々調べてたり、こういうの好きだから聞くんだけどさ……」

 それは、彼の母方の祖父母の事だった。
 祖母は多少霊感のある人だったのだが、彼女が最近、祖父や主人の母を筆頭とした親戚に、「家にいたくない」と訴えているのだという。

 なぜ家に居たくないのか、と聞くと、祖母はこう答えた。
 「幽霊が出るから」と。




 その“幽霊”がどのようなものなのか、彼は母から聞いていなかった。

 「ただ、母さんからはお祖母ちゃんが『幽霊が出るから家に居りたない』って言ってる、ってしか聞いてない」
 「ははあ……」
 「どうなんやろ? ほんまに出るんかな? ほんまやったら、お坊さんとか呼んでお払いした方がええんかなって母さんは言ってる」

  彼がそう不安げに聞いてくる。だが、
 「いやぁ……」
  私としては、別の事を心配していた。

 「失礼やけど、ひょっとしたらお祖母ちゃん認知症か何か違うか……?」
 高齢者の場合、視力の低下や判断力の低下、または認知症等によって、自分の周りの環境を把握できなくなる事が起こる場合がある。
 例えば、視力が低下しているために、部屋に掛けてあるコートの前を通り過ぎた際に、コートを『人影』だと誤認するような事が起こりうるのだ。
 彼の母方の祖母は、既に90歳を越えているという。もしかしたら、そのような事が起こっていたとしてもおかしくない。

 「だから、その『幽霊』が、『なんか黒い物が目の端にちらちらしてる』みたいな、ぼんやりした表現の物やったら、こっちを疑った方が良いと思う……」
 「ああ……成る程なぁ……」
 彼にも思い当たる節があるのか、腕を組んで頷いている。

 「言うても素人考えやし、あんま言いたないんやけどな」
 「そうかぁ……。いやでも、参考になったわ。母さんにも聞いてみる」
 「ま、その『幽霊』がさあ、『毎晩夜の2時頃になったら、部屋の隅から女の子が出てきて天井を指さしてシクシク泣いてるのよ?』とか、具体的なもんだったらお寺さんの出番ちゃう? 詳しく聞いてみん事にはわからんで」
 「そやなぁ」

 ……そんなやりとりをした後、電車が目的の駅に着いたので、この話はここで終わりとなった。

 だが、それから1年ほど過ぎた頃。
 彼の実家に遊びに行き、ご厄介になっていた時に彼の母、祖母と一緒に居間で話をする機会があった。
 話の方はたわいもない物で、あの子はちゃんとやっているかとか、引っ越したら連絡をよこさないとか世間話半分、友人の愚痴半分なものだったが、ふと思い出したように彼の母が言った。

 「そういえば、あの時はあの子が敏ちゃん(※筆者)に聞いてくれたんだっけ、ねぇ?」
 「そうや、そうや」

 「はい?」
 急に彼の母と祖母が、2人して言い始めたので、私は思わず聞き返した。

 「ほら、お祖母ちゃんの家に『幽霊』が出るって言ってた話」
 「そうそう、あの後お寺さんに言ってお経をあげてもらってねぇ……」
 「……あ、そうだったんですか! 結局どうなったのか、あいつからは全然聞いてなかったもので……」
 「あらほんまぁ? 全くあの子もええ加減な……せっかく○○ちゃんの言うとおりやったのに」

 「…………え?」

 「だって、一緒やったんやもんなぁ、お祖母ちゃん?」
 「そうや、そうや……私が見てたのと」

 「毎晩、夜中の1時くらいになると、私の寝てる部屋の隅から女の子が出てくるんよ。で、天井を指差すんやけど……どうもシクシク泣いとるみたいやったし、そんなんが急に、毎晩出てくるようになったからねぇ、どうしたもんかと思ったさかい、知り合いのお寺さんに頼んでねぇ……」
 「そのお寺のお坊さんもね、こんな女の子がいてますね、言うて紙に描きなすったんよ。お祖母ちゃんの言うとおりの女の子」
 「……あの、髪がおかっぱで、えび茶って言うか……茶色の着物だったりします?」

 「そうそう」
 「…………」




 筆者に霊感はない。あの時彼に告げたのは、あくまで『例え』として言ったものだ。

 「でねぇ、お坊さんがお経を上げた後で、天井板を外すとねぇ……」
 「錆びた古い鏡、とか、ですか?」
 「そうそう。そんな古い家でもないのに、なんでそんな所に、誰が置いたのか解らなくてねぇ……」
 「お祖母ちゃん、忘れてたんじゃないの? お祖母ちゃんじゃなかったら、お祖父ちゃんとか」

 彼の母がそう、祖母に言った。
 ……何が出てきたのか、その辺りの話についても、筆者は何も聞いていない。

 何せ事の進展について知ったのは、今日が初めてなのだ。

 それなのに。
 なお、その天井から出てきた鏡は、お祓いをしてもらった寺で供養のために預かってもらっていると言う。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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