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大リーグ選抜チームを相手に好投!日本プロ野球誕生のきっかけとも言える沢村栄治の伝説

今年(2016年)は、現在の日本野球機構(NPB)の前身である日本職業野球連盟が結成され、国内初のプロ野球のリーグ戦が開始されてから80周年の記念の年に当たる。

現代の日本プロスポーツの中ではトップクラスの人気を誇るプロ野球も、80年余り昔の時代においては果たして何がきっかけとなって誕生したのだろうか?

いろいろな要因があったと思うが、1934年11月20日に静岡草薙球場で開催された、全日本選抜VS大リーグ選抜の日米野球の試合における沢村栄治の好投も大きな動機の一つになったと思われる。

そんな、今なお日本プロ野球のレジェンドの代名詞である沢村栄治の伝説的エピソードを紹介させて頂こうと思う。




全日本選抜として、この試合で先発した沢村は、当時の大リーグでスター選手だったベーブ・ルースやルー・ゲーリックを擁する大リーグ選抜を相手に5安打1失点に抑える好投をしたのである。

惜しくも全日本は大リーグに0点に抑えられ、試合は0対1で敗戦。この年に開催された日米野球は16戦を行って全日本の全敗という結果で終了するが、沢村の好投により、全日本の勝利にもっとも近付いた試合と言えるのが11月20日の、この試合だったと言えるのかもしれない。

この時の全日本選抜の選手が中心となって結成されたのが、日本初の職業野球チーム『大日本東京野球倶楽部』。現在の読売巨人軍だったのである。

沢村も学校を中退して、大日本東京野球倶楽部の創立メンバーとなる。

またその翌年の1935年には本場アメリカで遠征試合を行っていた。またこの頃から『大日本東京野球倶楽部』は、『東京巨人軍』と名乗り始める。(以下 巨人)

そんな時期から沢村は、早々に伝説的なエピソードを残す。ある試合で観客の男性が沢村にサインを希望し、沢村が快く応じたところ、数日後に「沢村をいつ引き渡してくれるのか?」という問い合わせを受けたという。

なんと、この時に書いたサインというのは、セントルイス・カージナルスの契約書への署名だったのだ。当然、巨人は契約の無効を主張して断ったが、もしかしたら沢村はカージナルスに入団していた可能性もあったのかもしれない。そうなると、史実として初の日本人大リーガーとなった村上雅則に先駆けること29年も前になっていたはずなのだ。

また、もしそうであったならば、日本プロ野球の歴史もだいぶ変わっていたのかもしれない。

前述の日米野球の時点でも、すでに、沢村の好投を見たベーブ・ルースが「ボーイ!俺のポケットに入れよ!アメリカに連れて行ってやる!」というセリフを残したエピソードも伝えられている。

またその翌年の1936年より、いよいよ現代のペナントレースに通じることになる国内のリーグ戦が始まり、巨人も第2回の夏の大会から参加し、沢村もエースとして活躍するが、ここでも記録に残る伝説を残している。今なお個人としてはNPB記録であるノーヒットノーランを3回達成したのだ。

また、1937年春のリーグでは日本プロ野球における初代MVPにも輝いている。直球の球速がよく議論の対象になるが、伝説も相まって誇張されている可能性があるとはいえ、165キロだったという説まで存在する。

このように、巨人軍の初代エースにして、数々のレジェンドの持ち主である沢村だが、当時の日本は太平洋戦争の真っ最中であり、沢村も3度、徴兵により戦地に送られることになる。

2度の招集ののちに、いったんは巨人に復帰するが、重い手榴弾を投げて肩は既に壊れていて、巨人での最後の登板となった1943年7月6日の試合では8与四死球で5失点という散々な結果で降板。そして最期となる3度目の招集で戦地に向かう途中の1944年12月2日、乗っていた輸送船が攻撃され戦死した。

戦場から送った手紙には「アメリカ遠征で試合をしていた時代が懐かしいです。」と記されていたという……。




プロ野球での生涯成績は、63勝22敗、奪三振554、防御率1.74だった。

もしも戦争が無くて、肩も壊すことも無く、普通の野球人生を送っていたら、どれだけの成績を残していたのか……。

巨人で背負っていた背番号14は永久欠番となり、シーズンで優秀な成績を上げた投手に送られる『沢村栄治賞』は、もちろん沢村から由来している。

ちなみに沢村賞が制定されたのは1947年で、大リーグにおいて、ほぼ同様の賞といえる『サイ・ヤング賞』が制定されたのは1956年ということで、沢村賞の方が長い歴史のある賞なのである。

以上が現代まで語り継がれるレジェンド、沢村栄治のエピソードである。

日本プロ野球のリーグが始まって80周年に当たる今年、そのきっかけの一つとなった沢村栄治の伝説を胸に刻みながら、野球観戦を更に楽しもうと思う。

※敬称略、年号は西暦で統一

文:伊藤博樹(アキバ系の野球オタク)