妖怪・幽霊

【ちょっと怖い話】天狗かくし

 ある男性の祖父の話である。




 祖父は昔から色々な話をしてくれたというが、盛り上げるためかとにかく話を盛る癖があったという。

 中には子供心にも「これはホラ話だろう…」と思えるような荒唐無稽なものもあり、親や親戚にも「お祖父さんは昔から変わったことを言う人だからね」と苦笑混じりに言われる程であったという。

 ところが、そんな祖父のホラ話の中で、一つだけ一件荒唐無稽だが、妙に説得力を持った話があった。

 祖父が6,7歳ぐらいの頃、どこかに遊びに行ったきり、数日間帰ってこなかった事があったという。




 小さな子供がいなくなったと言うことで大事になった。お社や山の方へ遊びに行くのを見かけたとの話もあったので、地域の人も総出で山狩りしたのだが、まったく見つからず、何処へ行ったものやらと皆が途方に暮れていた……が。

 数日後、祖父はいなくなった時と同じ格好で、自分の家の裏庭からひょっこり帰ってきた。

 両親を初めとした全員は喜んだが、さて何処へ行っていたのかと訊いたところ、こう答えたという。

「天狗に連れて行かれた」……と。

 祖父がお社で遊んでいた時、杉の木の上に立っている一人の人を見つけたのだそうだ。どうしてあんな所にいるのだろう、と思って見上げていると、その人も気づいて木の上から祖父の前にふわりと降りてきた。

 その人は白髪に白い髭をしており、一件お爺さんのように見えたが非常に背筋がぴんとしている上に、とても大柄だったという。

 そして、その人は一人で遊んでいた祖父の遊び相手になってくれたのだが、「珍しいものを見せてやる」と言って祖父を袂に入れ、あちこちに連れて行ってくれたのだという。




 その人が天狗だったとしても別に飛んで移動するわけではなく、霞のようなものにつつまれたと思ったら周囲の光景が一変していた、というような具合であちこち観に行ったのだそうだ。行ったところは伊勢神宮やどこかの浜辺(祖父の住んでいたところは山に近い内陸部)、最後にはどこかの山の中に連れてこられたという。

 流石に心細くなり、帰りたくなった祖父がぐずりだしたところ、「それでは送っていってやる」と言われた。これで帰れる、と思った祖父が気づけば目の前にいた人は消えていて、周囲の光景もお社に戻っていたのだそうだ。

 祖父は両親達に迎えられるまで、自分が数日間も帰っていなかったことに気づいていなかったという。

 祖父はこの話をする度に、「信じてくれなくても良いが」と前置きしていた。また、やたら神妙な顔つきで話していたのが印象に残っているという。そして、確かに他のホラ話に比べてやたらと話の細かいディテールがはっきりしていたという。

 そして、当時の新聞には祖父が行方不明になった事件を報じ、情報提供を望む記事が掲載されており、今でも探せば閲覧する事が出来るという。

(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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